それから

夏目漱石のそれからをブログ形式にまとめてみました。

2008年11月14日金曜日

一の一

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 誰《だれ》か慌《あは》たゞしく門前《もんぜん》を馳《か》けて行く足音《あしおと》がした時、代助《だいすけ》の頭《あたま》の中《なか》には、大きな俎下駄《まないたげた》が空《くう》から、ぶら下《さが》つてゐた。けれども、その俎《まないた》下駄は、足音《あしおと》の遠退《とほの》く...

一の二

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 約《やく》三十分の後《のち》彼は食卓に就いた。熱《あつ》い紅茶を啜《すゝ》りながら焼麺麭《やきぱん》に牛酪《バタ》を付けてゐると、門野《かどの》と云ふ書生が座敷から新聞を畳んで持つて来た。四つ折りにしたのを座布団の傍《わき》へ置きながら、 「先生、大変な事が始まりましたな」と仰...

一の三

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「君は何方《どつか》の学校へ行つてるんですか」 「もとは行きましたがな。今は廃《や》めちまいました」 「もと、何処《どこ》へ行つたんです」 「何処《どこ》つて方々《ほう/″\》行きました。然しどうも厭《あ》きつぽいもんだから」 「ぢき厭《いや》になるんですか」 「まあ、左様《さう...

一の四

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 代助はやがて食事を済まして、烟草を吹《ふ》かし出した。今迄茶|箪笥《だんす》の陰《かげ》に、ぽつねんと膝《ひざ》を抱《かゝ》へて柱に倚《よ》り懸《かゝ》つてゐた門野《かどの》は、もう好《い》い時分だと思つて、又主人に質問を掛《か》けた。 「先生、今朝《けさ》は心臓の具合はどうで...

二の一

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 着物《きもの》でも着換《きか》へて、此方《こつち》から平岡《ひらをか》の宿《やど》を訪《たづ》ね様かと思つてゐる所へ、折よく先方《むかふ》から遣《や》つて来《き》た。車《くるま》をがら/\と門前迄乗り付けて、此所《こゝ》だ/\と梶《かぢ》棒を下《おろ》さした声は慥《たし》かに三...

二の二

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 代助と平岡とは中学時代からの知り合で、殊に学校を卒業して後《のち》、一年間といふものは、殆んど兄弟の様に親しく往来した。其時分は互に凡てを打ち明けて、互に力《ちから》に為《な》り合《あ》ふ様なことを云ふのが、互に娯楽の尤もなるものであつた。この娯楽が変じて実行となつた事も少なく...

二の三

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 両人《ふたり》は其所《そこ》で大分《だいぶ》飲《の》んだ。飲《の》む事《こと》と食《く》ふ事は昔《むかし》の通りだねと言《い》つたのが始《はじま》りで、硬《こわ》い舌《した》が段々《だんだん》弛《ゆる》んで来《き》た。代助は面白さうに、二三日|前《まへ》自分の観《み》に行つた、...
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soseki

人生を悩み抜いた夏目漱石の文学を読みましょう。100年前からの知恵の贈り物です。
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